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8. 後天性糖尿病の発症を引き起こす単糖


砂糖は、単糖であるぶどう糖 (α-D-グルコース) と果糖 (β-D-フルクトース) が結合した二糖です。
ぶどう糖と果糖のエネルギ換算値はほぼ同じです。
澱粉は多数のぶどう糖の結合物であり、加水分解によってぶどう糖を生成します。
エネルギの観点からは、砂糖と澱粉は同じです。
けれども、代謝上の観点からは、砂糖と澱粉は全く異なります。
澱粉に比して、砂糖は迅速に消化・吸収されるので、エネルギ不足の病人やスポーツなどの激しい運動をした後の疲労時などのエネルギ補給に即効性を発揮します。
血液に含まれる糖を血糖と云います。
医学、特に臨床検査の領域では、血糖は血中ぶどう糖を意味し、血中ぶどう糖濃度の測定値を血糖値と云います。
血中ぶどう糖濃度 (血糖値) は体内のメカニズム (血糖調節システム) によって一定範囲に維持されます。
澱粉はゆっくり消化・吸収されるので、血糖調節システムは十分に作用し、血糖値は一定範囲に維持されます。
けれども、砂糖は迅速に消化・吸収されるので、高濃度の砂糖を摂取した直後には、血糖調節システムの作用が追いつかず、血液局部の血糖値は著しく高くなります。
ぶどう糖や果糖などは、濃度が高いほど、他の物質へ容易に結合し、糖結合物質が生じます。
血糖調節システムを構成している蛋白質が糖と結合し、生じた糖結合蛋白質が蓄積量が増加するにつれて、血糖調節システムの作用が次第に弱体化されます。
血糖調節システムの作用が弱くなるにつれて、血糖値は次第に高くなります。
血糖値が高いほど、血糖調節システムの作用の弱体化が加速されます。
血糖値が正常値 (診断のための血中ぶどう糖濃度) を超えるとき、高血糖症 (糖尿病) と診断されます。
高血糖症は他の多くの成人病を引き起こし、また、それらの悪化を促進します。
ただし、血糖値は正常値から高血糖値まで連続したものです。
正常値中でも、血糖値が高いほど、血糖調節システムは早く弱体化します。
     図 砂糖 (スクロース) の化学構造と、その合成および分解

1 分子の砂糖は消化酵素 (スクロース-α-グルコシダーゼ) によって 1 分子のぶどう糖と 1 分子の果糖に分解された後、体内へ吸収されます。
ぶどう糖および果糖はそれぞれ反応性の高いアルデヒド基 (CHO) およびケト基 (CO) を持ち、他の物質と容易に結合します (後述参照)。
砂糖では、アルデヒド基とケト基が結合に使用されており、したがって、砂糖は他の物質への結合性を示しません。
これが、砂糖黍や砂糖大根が多量の砂糖を高濃度に蓄積できる理由です。

8・1. ぶどう糖や果糖などの単糖の性質


ぶどう糖や果糖などは単糖に属し、2 個の単糖の結合物である砂糖は二糖に属します。
ぶどう糖や果糖などの単糖は、水溶液中では、一定の構造を持たず、その構造は変化します。
     図 水溶液中のぶどう糖 (D-グルコース) および果糖 (D-フルクトース) の構造の変化

構造には、ピラノース型、フラノース型および開環型があります。
ピラノース型は、5 個の炭素原子と 1 個の酸素原子からなる環状構造 (六員環)、フラノース型は、4 個の炭素原子と 1 個の酸素原子からなる環状構造 (五員環) です。
ピラノース型およびフラノース型には、α体およびβ体があります。
開環型は環状構造を持っていません。
存在確率の最も高い構造は、ぶどう糖では、ピラノース型β体で、約 63% 、果糖では、ピラノース型α体とβ体それぞれ約 49% です。
フラノース型の存在確率は、ぶどう糖と果糖の両方で、0.1% 以下です。
開環型の存在確率は、ぶどう糖と果糖の両方で、約 1% です。

8・2. ぶどう糖や果糖などの単糖の蛋白質への結合


ぶどう糖や果糖などの単糖は蛋白質などと容易に結合します。
ぶどう糖の開環型はアルデヒド基 (CHO) を持っています。
果糖の開環型はケト基 (CO) を持っています。
ぶどう糖分子では、アルデヒド基の側を還元末端、そして反対側を非還元末端と云います。
果糖では、ケト基に近い側を還元末端、そしてその反対側を非還元末端と云います。
ぶどう糖や果糖などの単糖のアルデヒド基およびケト基は高い反応性を示し、蛋白質などの他の物質のカルボキシル基 (COOH) あるいはヒドロキシル基 (OH) と結合します。
     図 ぶどう糖 (D-グルコース) の蛋白質への結合

生じた結合物をグリコシド、そしてその結合をグリコシド結合と云います。
グリコシドの中で、糖の部分がぶどう糖であるものをグルコシド、果糖であるものをフルクトシド、などと呼びます。
糖を結合している蛋白質を、糖の種類に関わらず、糖蛋白質 (グリコ蛋白質) と総称します。
体内の全ての物質は新陳代謝 (分解・合成による物質の新旧交代) しています。
糖蛋白質も閾値 (限界値) を越えない限り、糖を結合していない蛋白質に置き換えられ、増加することはありません。
20 歳を越えると、新陳代謝の速度は次第に遅くなります。

8・3. ぶどう糖結合ヘモグロビン


成人の赤血球中に多量に存在するヘモグロビン (Hb) の大部分はヘモグロビンA (HbA) と略されます。
Hbには、微量の HbA2 が含まれています。
ぶどう糖などの単糖を結合しているヘモグロビンはグリコヘモグロビンあるいはヘモグロビンA1 (HbA1) と呼ばれます。
HbA1 の中で、ぶどう糖の結合しているものが最も多く、特に HbA1c (グルコヘモグロビン) と呼びます。
HbA 中で、HbA1c の存在比率は、正常では 4-6% 、そして糖尿病が進行すると、 20% に達します。
赤血球の寿命は平均 120 日間で、寿命を終えると血流中から消失します。
赤血球の寿命中に、HbA1 からぶどう糖が解離することはないので、 HbA1 の存在比率は糖尿病患者の 1-2 ヶ月前の平均血糖値を示すという観点から、成人病 (生活習慣病) や糖尿病の治療指導に広く用いられています。


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